(#指定されたキャラで140字SS書くログ)

ひとを、街を。助けてあげなければならない。この怪物の四肢を切り刻んで、脳髄を強く掻き壊して。ひとはみんなもろいけれど、もろくないわたしにはそれができるのだ。それがきっと唯一の、正しい道筋だと信じている。弱い光は時に驚くほど容易く踏み躙られてしまうものだと、私は知っているから。(実践的・机上の空論/春日江司)

シャーレに移し替える『異形』の切れ端、昨日までは同じ命であったもの。「キミは死体に囲まれている時が一番生き生きとしているな」「こういった作業は好ましいので」「正直でいいと思う」「ええ」命の価値は善良さだけではないとあなたは知っているだろうから、私はもう誤魔化して嘆かなくていい。(パーソナライズドハピネス/忍宮+ドクター)

いつからかあまり見なくなってしまった、あの穏やかな笑い方を思い出す。「兄さんが、」いつか泣き喚いていた私の小さな頭を撫でてくれた、あの緩やかな手つきを思い出す。「いなくなったって、本当なの」もういちどだけなんて子供みたいなことを思っても、あのやさしい温度はもうここにはない。(もうここにない熱/阪田兄妹)

誰も彼もが太陽に背を向けたこの地下には、生温い暗闇と安寧がある。「僕は、ここに」自分はきっと、この場所に長く居すぎてしまった。「いても、いいんでしょうか」振り絞るような少年の声に宿る少しの希望。久しく見る事のなかったその微かな明かりに、とうに失ったはずの右目が焼けるように痛んだ。(溝鼠の感傷/皇+秋人)

振り下ろされた鉤爪を避けて、赤黒い巨体に刃を突き刺した。怪物を殺して街を守る。この暴力の先にあるそんな未来予測を、俺は一つも信じられていないから、この行為には一欠片の大義もない。「それでも、」お前にはここで死んで貰わなければならない。この醜い自分が、今日も死に損なっていくために。(泥中のxxx/柊)

お前が何か大切な物でも扱うような声で名前を呼ぶものだから、俺は時々、自分の価値が分からなくなる。「夏生くん」自分はきっと、その信頼に、情に、相応しく足る人間ではない。知っているのに応えてしまうのは、手放す勇気が無いからだ。「秋人、」いずれ失う時が来るとしても、せめてその瞬間までは。(束の間の休息/夏生+秋人)

振り返ると、一番後ろの席で窓の外を眺める彼の姿があった。その瞳に浮かぶ真剣な色が好きだから、そこに映っているものが何なのか、僕はいつも知りたくなってしまう。けれど。「夏生くん、」静かに名前を呼べば、君は同じ瞳を此方に向けてくれるだろうから。その正体を尋ねるのはもう少し後でもいい。(焦点/秋人+夏生(現パロ))

(140字SSログ)
寒さで人恋しくなるだなんて、まるで小さな子供にでも戻ったかのようで少し気恥ずかしい。見慣れた道を足早に通り過ぎる途中、路傍に小さな花が咲いているのが見えた。俺が道端で見掛けた花の話なんかしたら、あいつはどんな顔で驚いてくれることだろう。それを想像するのが、今は、何よりも。(文章お題改変/夏生)

取り残された人の熱が消えて、置き去られた街には雨が降る。頬を叩く水滴に瞼を閉じて、肌を撫ぜた生温い風の中に聞こえない誰かの声を思った。何時までも止む気配のない雨の中。ふと目を開いて歩き出したなら、いつか辿り着くべき場所に届かなくても、君の心臓は確かに動いている。

容器の包装をべりべりと剥がして小袋を取り出すと、一連の動作をちらりと一瞥した男は「不健康ですね」とどうでも良さげに呟いた。放っておけ、と適当に返しつつ熱湯を注いだ所で、はたと気付く。湯を注いでしまったということは、最低でもあと三分はこの場に留まらなくてはならないのではないか。(#物書きのみんな自分の文体でカップ焼きそばの作り方書こうよ/蕪木+柊)

(番外編/二次創作、原作さまはリンク先)

優しくなんかできない。してやらない。此方を見据える真っ直ぐな瞳に満ちたあたたかさが本物だなんてこと、本当はずっと前から知っているけれど。だからもう何もしないで。あたしを分かろうなんて思わないで。雛鳥を守るために作られた鳥かごの材料が何かなんて、あんたは一生知らなくていい。(うらはらのセンチメント/秋津繭ちゃん→苧環架さん)
(原作:楽観的レール/キヅカ歩図さん『学生戦争』)

賑わう街に微笑んだ、陽の光のように柔らかくて美しいかんばせを見つめる。誰よりも優しい人、誰よりも強い人。それなのに、いつでも一人きりで戦っているような人。貴方が空けていてくれた隣の席に足る男に、俺が絶対になってみせると誓うから。それ迄もその先も、ずっと傍で笑っていてほしいんです。(明日へ続く希望の世界/キング君→キサキ先輩)
(原作:01./紺野さん『HEAVY RAINY SCREAM』)

高鳴る鼓動が、いつだってひとりではないのだと教えてくれる。「アマギ!」すぐ側で名前を呼ぶ君の声と、甲斐甲斐しいぐらいのやさしさが、空っぽの胸の中にこころを分けてくれたから。二人なら、僕は僕として歩いて行ける。「いこう、ルシファー」お人好しな悪魔の心臓が、今日も僕を生かしている。(心音一人分/アマギくん→ルシファーさん)
(原作:nabe+/水炊よういちさん『Dual』)

ねえ、好きよ、花緒。私はあなたのことを気に入っている。あなたはとても優しい子。あなたはとても、綺麗な子。鈴の音が鳴るような響きで語られる暖かな言葉が、聴覚から心臓へと流れ込んでその中身をどろどろに溶かしていく。夜の洞窟はひどく静かで暗いから、僕の耳は彼女の声以外何も拾わない。僕の瞳は彼女しか映さない。それがとても心地良くて、このまま僕の一生が終わればいいとすら思うのに。彼女と居られる時はいつも瞬きの間に過ぎ去ってしまう。「また明日も、此処に来てくれる?」「……うん」それを君が望むなら。いまこの瞬間が永遠になる夢を見ながら、僕は必ず君の下へ還ってくる。
(ネバーエンディング・ストーリー/花数)
(原作:くらくら/川越さん『数子は血を啜る』)

 初めて顔を合わせたとき、彼女は俺からマリーゴールドの匂いがすると言った。花の種類に明るくない俺にはそれがどんな香りなのかよく分からなくて、きっと実物を目の前にしたとしても、彼女と同じ感想を持つことはできないのだと思う。
 今俺が感じることができるのは、先程までしきりに降り続いていた雨の埃っぽい臭い。そして自分と彼女の身体から微かに漂ってくる血液の匂いだけだ。
「大丈夫か」
 座り込んで休息を取っていた少女の元へ近付くと、「だいじょうぶ」と柔らかい響きの声が返ってきた。赤黒く染まった服に似つかわしくない、緊張感のないふにゃりとした笑顔に初めの頃は違和感を覚えていたが、その疑問はそれから暫くしてあっけなく解消された。
 痛みを、あまり感じないのだと彼女は言った。
 自分にも痛みを忘れてしまう、置き去りにしてしまうときは多々あるけれど、彼女の「それ」は俺の感覚とは何処か異なっている気がする。
「肩を貸すか」
「ううん、いいよ」
 彼女は此方を刺すことのない軽さで断ると、「もう治ったから」と微笑みながら上着の袖を捲った。確かにその言葉通り、先の戦闘で負っていたのであろう傷の口は綺麗に閉じて、跡形もなく消えてしまっている。
 痛みも傷も、既にこの世には存在しない。彼女が傷付いたことを証明できるものは、最早その皮膚を流れて布地に染みた血液の跡だけになってしまったことを知る。
 それが何故だかとても寂しいことのように思えて、俺は思いがけず彼女の方へ向けて手を差し出してしまっていた。
「……なら、手を」
 口に出してしまってから直ぐに不躾な申し出だったと後悔したが、彼女は特に嫌な顔をすることもなく、勢いで伸ばしてしまった右手の上に、俺より一回り小さい左手を重ねてくれた。
 ゆっくりと手を引くと、少女は少し危なっかしい動作で立ち上がって、手袋越しの感触はすぐに離れる。
「戻ろうか、」
「……ああ」
 「おなかすいちゃった」と笑う、自分よりも随分と小柄な同僚の言葉に黙って頷きながら、俺はらしくもなく、今晩の食事が普段より女の子受けする味付けであるように祈っていた。
(雨上がりの交差/鎧戸夏生+三橋葵さん/クロスオーバー)
(原作:慰涙/astronomad/彼住遠子さん『星花慰』)

 

(随時追加)

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