(#いいねされた数だけ書く予定のない小説の一節を書くログ)

殺す必要はあるのか。無視すれば良いだけだろうと首を傾げると、柊は「バッカじゃないの」と冷たく吐き捨てた。「一先ず、春日江が来るまで……」「あいつが来たら素手で潰しかねないでしょ!?」「……」両の手に其々押し付けられた塵取りと殺虫剤を握り締めて、俺は仕方なく部屋の奥へと向かった。(夏生+柊)

「ああ、ボクが許可した」
「司令には……」
「事後承諾ってヤツだな!」
それを得るのは私ですよね、という言葉を寸での所で飲み込む。刃向かった部下をいちいち罰する人ではないが、態々言葉にしたところで聞き入れて貰えるわけでもない。弾丸のような屁理屈の羅列でやり込められるだけだ。(蕪木+ドクター)

あ、と声を上げる間もないまま上に乗り上げられて、勢い良く床に押し倒される。衝撃でぎゅっと瞑ってしまった目を恐る恐る開くと、作り物のように整った顔が間近にあって思わず瞠目した。
お人形みたいだなあなんて現実逃避する僕の思考を他所に、爽やかな声が耳元で響く。
「私の勝ちだね、阪田君」(秋人+司)

「キミは友達が欲しいのか?」
「ううん、いたことがないからよくわからないな」
私が少し考えてから答えると、ドクターは「そうか、ボクにも居ない」と真顔で頷いた。
「ドクターにも友達がいないの? ケンイチ君は?」
「あの引きこもり男に友人が居るように見えるかい?」
「聞こえてるぞ!」(司+ドクター+皇/六年前)

普通の人間だ。人並みに、いや、それより少しだけ善良で、それでも人並み程度には薄暗いものを抱えている。
「敬語はいいよ、煩わしいから」
「えっ、ありがとうござ……じゃない、あ、……ありがとう」
戸惑いが滲む声に少しの後ろめたさを覚えながら、俺はなるべく無表情を保ったままで頷いた。(柊+秋人)

「死んでいるね」
昼下りの喫茶室に似合わない呟きに、手元の本に目を落としていた顔を上げる。
「窓際。キミの隣」
見慣れない金色の瞳と目が合って、私はそこで初めて彼が此方に向かって話し掛けていたことに気が付いた。
「アレは蛾か、初めて見た種類だ」
「……よく居ます、この辺りでは」(忍宮+ドクター/五年前)

「……此処に居てください、俺一人で行きます」
「許可できない」
「逃げませんよ、そうしたいのは山々ですけど」
此方の意図など理解しているのだと。見透かすような視線の冷たさに思わず言葉に詰まる。柊は俺の様子を一瞥すると、それに、と静かに続けた。
「発信機ぐらい付けてるでしょ?」(蕪木+柊)

「そういうことなら、私に任せて」
ふわりと身体が宙に浮くような感覚がして、両足が地面から離れる。
「……か、すがえ、これは……」
「? 歩けないんだろう?」
私が運ぶからしっかり掴まっていてね。そう微笑む男の顔と状況に思考停止して、夏生は直ぐには言葉を吐き出すことが出来なかった。(夏生+春日江)

「おかえり」
「夕飯を作っていたんだけれど、何故か鍋が爆発してしまったんだ。お風呂も沸く前に吹き飛んでしまってね。今日は外食にしようか!」
冗談みたいに白いエプロンが目の前で揺れて、その現実味の無さにフラリと意識が遠のい――た所で、覚醒した。
「……俺は何……何でこういう夢を…」(柊+春日江)

「リータ」
「気安く呼ばないで!」
静かな声色に苛立って強く?を打つと、少年の細い身体はそのままよろけて床に転がった。同い年の女に負けるなんて、本当にひ弱で情けない。その癖生意気で、根暗で、ああ、気色の悪いやつ!
「……君は少し、妄想と現実の区別をつけた方がいい。これは忠告だ」(?+?)

「髪、伸びたのね」
三年振りに会ったみたいな口振りだ。そんなことは全くないのに。
「……そろそろ切るよ」
「切らなくていいじゃない、この方がスキ」
「何で」
「あたしに似てる」
きゃはは、と笑う鏡の中の女と自分の見目は確かによく似ていて、何だかどうしようもなく疲れた心地になった。(アズミ+リン/十年前)

「その程度の体調管理も出来ないなんて、本ッ当……ていうかバカは風邪引かないんじゃなかったの? それ以外の何処に取り柄があるの?」「私、『夏風邪は馬鹿が引く』という言葉を聞いたことがあるよ!」「二人とも、ちょっと一旦僕と外出てようか! 夏生くんますます熱上がっちゃいそうだから……」(柊+春日江+秋人)

「その件でしたら、柊さんが代役を」
予感通りに最悪な顛末に頭を抱えたくなるが、今はまず目の前の同僚に謝罪するのが先だ。
「不躾に尋ねて申し訳ない。……ありがとうございます」
「いえ」
相手は一回りも年下の女性ではあるが、立場的にはほぼ対等な存在なのだ。礼儀は尽くす方が無難だろう。(蕪木+忍宮)

どろりと包帯の下を流れた液体が涙なのか、傷口から漏れ出した膿なのかもう判別がつかなくなっていた。惨めさに耐え切れず顔を隠した腕を掴まれて、思わず目の前の男の顔を強く睨む。相変わらず、吐き気がする程胡散臭くてお綺麗な面だ。
「……信じられると思うのか」
「信じろなんて言っていない」(皇+ドクター/十年前)

味は以前春日江に淹れて貰った時と大差なかったが、あれよりは微かに香りが良いような気がした。温くなった液体をそのまま喉に流し込んでいると、ふと男が呆れたように呟く。
「赤の他人が淹れたモノを、よくそこまで何の躊躇いもなく飲めるものだな」
「……何か入れたのか?」
「いや、今は特に」(夏生+ドクター)

靴を履いた瞬間、背後から娘の甲高い泣き声が聞こえてきた。先程泣き疲れて寝たばかりで、漸く落ち着いたかと思ったのに。溜息をついて引き返そうとすると、見送りに来ていた息子が眉を下げて困ったように笑う。
「ぼくが見るよ」
「そう?」
「うん、大丈夫だから。母さんは買い物に行ってきて」(阪田家/十二年前)

ぎゅっと身体に回された腕の温度に頭の中の時が止まって、抱き締められたのだと正確に認識できたのはそれから数秒が経ってからだった。
「死んじゃったかと思った……!」
「し、……死んでない」
その返事に我に返ったのか、パッと物凄い勢いで秋人の身体が離れる。
「あ、ご、ごめん」
「いや」(夏生+秋人)

「はあ……」
面倒臭い。元々俺は、年上の女と話すこと自体ーーというか、姿を見ることすらもあまり好きではないのだ。では男なら良いかといえばそんなことは無く、年下だって(そんなに会ったことはないけど、多分)煩くて嫌いだし、同年代なんて論外で、要は大体どんな人間も全員嫌いなのだけれど。(柊+忍宮)

「私、提案があるのだけれど!」
「ノックをしろと何回言えば分かるんだこの糞餓鬼! 貴様の脳味噌はスポンジ製か?」
ぶち破られそうな勢いで開かれた扉に向かって怒鳴ると、犯人は特に悪びれる様子もなくきょとんとした表情で首を傾げた。
「? 違うと思うけれど、吸収性が高そうな素材だね」(皇+春日江)

「ご安心を。これは緊急時用ですから、普段は使いません」
「緊急時には使えるのか」
「安全装置の外し方は分かります」
そう言うと、忍宮は不意に拳銃を上に向けてその銃口を覗き込んだ。無造作な手付きに肝が冷えたが、後に続く言葉が更に不安感を煽る。
「まあ、撃ったことはありませんが」(忍宮+夏生)

「秋……、……いないのか」
エレベーターを降りて扉を開けても、探していた人物の姿は見当たらない。秋人だけではなく、他の二人も何処かに出掛けてしまっているようだ。人の気配の無いコンクリート張りの部屋は嫌に静かで、どことなく普段より冷えた空気が充満しているような気がする。(夏生)

「君は、本当に」
強いな。
嗚咽のように吐き出された言葉と共に、目の前の男性の顔は泣きそうに歪んだ。
「……そ、んな、ことは……」
無い。などと、嘘でも心から言うことが出来たなら、これ以上この人を傷付けることなく会話を終わらせることが出来るのだろうか?
分からない。分からない。(夏生+蕪木)

 

(いつかちゃんと全部書きたいです)

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