(#いいねされた数だけ書く予定のない小説の一節を書くログ2)

「……君はいつでも最高に、とびきりかっこいいよ」
「そういうことは初めて言われた」
「今日の阪田ちゃん大丈夫? 目腐ってない? というか頭もおかしくない?」
「柊くん、腐敗は細菌によって引き起こされるものだから生きている内に人間の眼球は腐らないと思うよ」
「む、ムカつく……」
(秋人+夏生+柊)

「どうして止めてくれなかったんですか……」
「止めようと思わなかったので」
 能面のような表情を浮かべた同僚への追及を諦め、蕪木は座席の下に滑り込ませた鞄から使い慣れた通信機を取り出した。頭に浮かぶ二つの番号の内、どちらに掛けたものか一瞬だけ迷って――暗澹たる気分で前者を入力する。
(蕪木+忍宮)

 男の全身は、どういうわけか頭からバケツの水でも浴びたかのように水浸しだった。「服だ、服」と顔を顰めると、「ああ」と何処か上の空の相槌が返ってくる。
「いいだろう、別に」
「椅子が濡れる!」
 拭かない癖に汚すなと怒鳴り声を上げると、退屈そうに頬杖をついていた男の表情がふと緩んだ。
(皇+ドクター)

「髪、切ったの」
 思わず口をついて出た言葉と声の間抜けさに自分で驚いた。姉さんも、驚いた顔をしていた。いや、実際の所驚いてはいなかったのかもしれないけど、普段より少しだけ、瞳孔が開いた。
 ように見えた。
「うん」
 静かな、それでいて、はっきりとした声だった。(双葉+忍宮)

「『私』って、なんだか」
 街頭で見かけたテレビ画面に映るスーツ姿の男性達を思い出す。
「偉い人みたいだな」
 具体的な役職名を絞り出せずに口を開くと、春日江は不思議そうにこてんと首を傾げた。女みたいだな、の方が顔立ちだけなら近いのだろうが、今の俺は彼にそのような印象を抱いていない。(夏生+春日江)

 視界は不思議と澄んでいて、辺りはしんと静まり返っていた。ふっと息を吸い込むと、ひんやりと冷たい空気が喉の中を抜けて腹の底まで満ちる。
ふと見上げると星空があった。ずっとそこにあったはずの星空だった。

 外に出たのだ。
(?)

「ねえ柊、私」
「なに」
「いいことを思いついたのだけれど」
 春日江の言う『いいこと』が実際にいいことであった試しはない。でも、こいつにとっていいことなら、少なくとも、俺にとってはいいことなのかもしれないと思った。その時の俺は、確かにそう思った。(春日江+柊/六年前)

「キミ、」
 来たか。と、一瞬肩周りの筋肉が緊張するのが分かった。動揺を悟られぬように、大して美味くもないコーヒーをわざとらしく啜る。
「勝手にヒトの仕事を増やしたね」
「何のことだか」
「しらばっくれるのがヘタだな。見苦しいぞ」
「見ていて苦しいの?」
「貴様は黙ってろ!」(皇+ドクター+春日江)

「は、」
 後頭部にガツンと硬い衝撃が走る。
 壁に叩きつけられた。そう認識した途端に身体の芯がじんと麻痺するような酩酊感に襲われて、夏生は妙に白くなった頭で目の前の景色を見つめた。力の入らない身体が剥がれてべしゃりと地面に落ちる。息ができない。
「っ夏生くん、起きて!」(夏生+秋人)

「ちょっと待て」
「待ちません。というか待てません」
 見ればわかるでしょ、死にたいんですか。冷たい声と共に振り解かれた腕に歪みそうになる表情を無理矢理正しながら、俺は前を行く柊の肩を掴んだ。
「待ってくれ。……その前に、本部に連絡」
「する暇あるんですかね」

「ほら、来た」
(蕪木+柊)

「誰だ、それ」
 聞き慣れない名前に首を傾げると、「え、」と呟いた秋人の表情が固まった。ソファで寛いでいた柊はあーあ、とでも言うように額に手を当てて嘆息し、不思議そうな顔をした春日江が俺と同じ角度で首を傾ける。
「……もしかして夏生くん、まだあの人と会ったことないの……?」(夏生+秋人+柊+春日江/→?)

「じゃあ、飛ぼうか」
「え」
「そんなに高くないよ」
「いや」
「私もいるから」
「む、無理無理無理無理」
「三、二、一、」
「ま、待って待って待っ」
「ゼロ」
 ――神様仏様夏生くん、どうかご加護をください。咄嗟に頭の中で念じた祈りも虚しく、僕らの身体は勢い良く屋上から墜落した。(春日江+秋人)

 中身が見たい。
 人間に対してそう思ったのは、生まれて初めてだった。
 表層の皮を引き剥がしたい。骨から何からばらばらにして、そのひとつひとつを取り出して眺めたい――貴方のことが、知りたい。

 それは、もし私が普通の少女だったなら、「恋」と呼べたようなものであったのかもしれなかった。
(忍宮→ドクター)

 顔を上げると、春日江さんは鉄棒に両足を掛けてぶら下がったままの状態で此方を見ていた。逆さまになった薄い青色の瞳と視線がかち合う。彼は私の目を見つめてぱちぱちと瞬きをすると、くるりと一回転して床に着地した。曲芸師のような動きに少し瞠目する。
「おはよう」
「おはようございます」(忍宮+春日江)

「阪田ちゃんってさあ、酔っ払うと性格変わるタイプなの? さっきから何かこう、すごい……すごく……あれ、何だっけ」
「柊くんほどじゃないかなあ、さっきから言動が大雑把すぎて普段より背が高く見えるよ」
「秋人、秋人。それは柱だ」
「スタミナステーキ定食ひとつ、アイスコーヒーも追加で」(柊+秋人+夏生+春日江/現パロ)

「足手まといが居なければやれます。一人でも」
『珍しく強気だね。ヤケになってないか?』
「無駄話はいいから出せ」(柊+ドクター)

「先日は、ありがとうございました、……すみません、お礼が遅れてしまって」
「礼を言われるようなことはしていない」
 そうだ、していない。出来るはずもない。
 何も。
「すみません。……でも、」
 口答えをするな。そう怒鳴る気になれなかったのは、その声があまりにも穏やか過ぎたせいだろう。
(皇+秋人)

「助けて、って、誰かに言ったことはある? かっこ悪く喚き散らしながら、一人でわんわん泣き叫んだことが。誰にも聞いてもらえなくて、恨んで恨んで、もう、すっかり諦めたことが」(?)

 串刺しにされた身体はまるで自分のものではないかのように自由が効かない。追撃に備えるまでもなく、獲物は静かに動作を停止して地面に沈んでいった。 杭のように脇腹を刺していた爪がどろどろとした液体に変わって、ふらついた身体は手を付くことも出来ず倒れ込む。(?)

「……少し、寝てもいいか」
「、いいよ」
 驚きつつも即答すると、ソファに横たわる夏生くんは「わるい、」と一言だけ溢して、そのまま早々に寝息を立て始めた。
 邪魔くさそうに落ちてしまった前髪を掻き上げようと手を伸ばして、止める。今の彼は、触れたらその分だけ磨り減ってしまう気がした。(秋人+夏生)

 擦れ違う部下達に奇異の、或いは哀れみの目で見られつつも全力の早歩きで研究室に向かう。やっとの思いで辿り着いた扉の先では、呼び出しの主とその助手が相変わらずの飄々とした佇まいで待ち構えていた。
「遅刻、」
「!」
「の、一分前だ。セーフだね」
「セーフですね」
「セ、セーフですか」(蕪木+ドクター+忍宮)

「司はオレに似て賢いなあ!」
「私に似ていい子でよかったわ!」
「うん!」
 手を取り合って喜ぶ父さん達に元気よく返事をすると、二人は心底楽しそうな顔でにこにこ笑った。
「でも。外に出かけるのは、これからも母さんか父さんが一緒の時だけにしてね。いい?」
(春日江家/十年前)

 堰を切ったように溢れ出した言葉はもう止まらなかった。理性は言うなと叫んでいるのに、言うことを聞かない口は勝手に聞きたくもない内心を吐き出していく。
(?)

 目的地を定めた後の柊の足取りは慎重だが迷いがない。彼の後に続きつつも慣れない街並みの物珍しさにそわそわと辺りを見回していると、「余所見しない」と前方から小さく叱責が飛んだ。
「前だけ見て、真っ直ぐ歩いて。そこで寝てる奴らとは目を合わせない」
「お前は背中に目でも付いてるのか」(夏生+柊/十年前)

 真っ赤な瞳が此方を見つめている。
 騒がしく聞こえていたざわめきが不意に消えて、大して大きくもないはずの彼女の声だけが耳元で鳴った。まるでそれがこの世で唯一の音でもあるかのように。はっきりと、確かに。
 どくどくと脈打つ心臓が苦しくて、夏生は初めて自分が息を止めていたことに気付いた。(夏生+忍宮)

「それは、」
「、」
「それはね、蕪木さん」

「悪い夢だったんですよ、全部」
(柊+蕪木)

「何でもない」
「『何でもない』ってわざわざ口に出して言う人が本当の本当に何でもなかった確率って、どのくらいになるんだろうね」(柊+秋人)

 此方の姿を視界に入れた瞬間、目の前の男の顔が一瞬だけ驚愕の色に歪んだ。 気が付いた瞬間に脳の奥がジンジンと痛む。耳鳴りが止まない。
 本人は上手く隠したつもりだろうが、俺にはわかる。分かってしまう。解ってしまうのだ。

 「醜い」という視線だけは、どうしようもなく!(皇)

「聞いてどうする」
「僕に頭の悪い人間だと思われるのが恐ろしいから質問の意図を事前に把握して予防線を張っておきたいキミの内心は分かるが、止めたまえ」
「殺すぞ!」
(皇+ドクター)

 喉に引っ掛かっていた小骨が漸く取れたようなーーそれでも残った傷が、じくじくと軽い痛みを訴えているような、妙な気分だ。
(?)

 痛いことも苦しいことも頭がばかになればぜんぶわからなくなる。喉がかわいたこともお腹が空いたこともちょっとめちゃくちゃになったら忘れてしまう。それでもさみしいことはわかる。さみしかったことだけは、さみしいことだけは、ずっとずっとばかみたいに覚えている。(リン)

「いつか叔父様が言っていたことがあるの。血縁は一番近い他人だと」
 そのときはよく意味がわからなかった。そう言った三鷹の目は私の方を向いていなかった。
「でも、今はわかる」
 ここではないどこか遠く、すっかり終わってしまったなにかを思い出すような目。
「それでも私は、兄さんが好きよ」(理沙+三鷹)

 分岐点は既に過ぎ去っているのさ。
 男はそう言って少し笑うと、とうに温くなってしまっているであろうコーヒーを静かに啜った。そういえば俺は、この人がこれ以外の物を飲み食いしている所を見たことがない。
「フクスイボンに返らずってヤツだろう」
「あんたが言うと地名みたいに聞こえる」(ドクター+夏生)

「ひっ」
「えっ」
「!」
「あ、頼んだピザだ」
「ああ……」
「三人とも、どうして玄関ドアを見つめたまま五秒程変な姿勢で停止していたの?」
「別に何でもないけど、次回から宅配を注文して映画見てる最中にインターホンが鳴りそうな時は事前に言っておいてくれる? 別に何でもないけど」
(阪田+柊+夏生+春日江/現パロ・ホラー映画)

 言われてみればあの二人には似通った点が無いでもない。やけに芝居掛かった仕草だとか、何処まで此方の話を聞いてくれているのか判断がつかない所とか。(夏生)

「ああもうベタベタベタベタ鬱陶しい! 女子中学生みたいな会話しないでくれる!」
「何を話すんだ、女子中学生って」(柊+夏生)

「忍宮女史!」
「許可は下りていますから」
 女性は非難じみた蕪木の声を半ば無視して踵を返すと、首から上だけをクルリと回す梟のような動きで夏生を振り返った。
「ついてきますか?」
(蕪木+忍宮+夏生)

 どこまででも走れる気がした。
(?)

「ヒーロー、って知ってるかい」
「『ヒーロー』?」
 何だそれは。一応は心の内に押し留めたつもりの怪訝な思いは思い切り表情に出ていたらしく、男は此方の顔を見るなり愉快そうに唇を歪めて笑った。
「あの子はそれになりたいそうだ」(柊+ドクター/六年前)

「向こうには何があるんだろうね」
「向こう?」
 発言の意味が分からず首を傾げた自分を見て、秋人はくすりと笑うと、「ほら、」と遠くの方を指差した。
「この辺りは廃墟ばっかりだけど、もっと向こうの方もそうなのかなって。今みたいな景色がずっと続いてるのかな」
「考えたことがなかった」
(秋人+夏生)

 子供、大人、老人、人類。そういう漠然とした言葉で表される数え切れないほどの実体たちが、各々ばらばらに酸素を吸って二酸化炭素を吐いて、起きたり眠ったり、「いただきます」を言ったり言わなかったりする。悲しんだり怒ったりもするのだろう、多分。見たことはないけど。(柊)

「いえ。ご配慮、痛み入ります」
 畑違いの事務職での採用とはいえ、討伐隊から此方への転属を受け入れて貰えたことは幸運だった。恥を忍んで上官に懇願したとはいえ、身一つで放り出されることも覚悟していたのだ。この身体では都市部に住む母親と妹を十分に養えるほどの仕事を見つけることは難しい。(蕪木)

「お前が気にすることじゃない」
「……そうか」
「……春日江と何を話してたの」
「……それこそ、お前が気にすることじゃないんじゃないか?」(柊+夏生)

 

(いつかちゃんと全部書きます)

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